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19. 付録 A: (技術的に)モデムがどのように動作するのか (未完成)

19.1 変調の詳細

変調の序論

この章では通常のモデムがどのようにして変調を行うのか、その手法を述 べます。 56k モデム (v.90) がときどき使用 する、高速モデムが使う(係数変換などの)手法については記述しません。しか し、56k モデムは以下に述べる変調手法も使用しています。

変調とは (0 か 1 の)二進法で表現しているデジタル信号を、正弦波のような アナログ信号へ変換することです。情報を伝えるために調整された正弦波の 「キャリア」から、変調した信号はできあがっています。周波数と電圧を変更 していないキャリア正弦波は、(キャリアが存在するという事実を除き)全く情 報を伝達しません。情報を伝えるために、このキャリアを変更(あるいは変調) します。変調には 3 つの基本的な形式、周波数変調、振幅変調、そして位相 変調があります。次節で説明します。

周波数変調

最も単純な変調方式は周波数変調です。周波数は正弦波が 1 秒間に何回 周期を成すかで測ります。それは 1 秒間に正弦波形が繰り返した回数です。 これは 1 秒間に最高値へ達した回数と同じです。「へルツ」(省略して Hz) は「1 秒間の周期数」の意味で使います。

周波数変調の簡単な例は、ある周波数が二進数の 0 を表し、それ以外が 1 を 表すものです。例えば、時代遅れの 300 ボーのモデムでは、1070 Hz は 0 を 表し、1270 Hz は 1 を表していました。これを「周波数移動方式」と呼びま す。たった 2 つの周波数ではなくより多くの周波数を使えば、更に多くの情 報を送信できます。(A, B, C そして D という) 4 つの異なる周波数があった なら、それぞれの周波数は 2 ビットを表現します。例えば、00 を送るために 周波数 A を用います。01 には B、10 には C、11 には D を使用します。同 様に、8 個の異なる周波数を用い、周波数シフト 1 回で 3 ビットを送ること ができます。使用する周波数の数を 2 倍にするごとに、送信できるビット数 は 1 ずつ増えます。

振幅変調

上記の周波数変化 1 回で複数のビットが表現できる周波数変調の例を理 解したなら、振幅変調および位相変調とも簡単に理解できます。正弦波の周波 数を変更するのと似たように、振幅変調は正弦波の高さ(電圧)を変更します。 単純な場合では、ひとつが 0、もうひとつが 1 を表現するように 2 つの振幅 を使用します。周波数変調についての説明と同様に、より多くの振幅を用いれ ば 1 回の振幅変調でより多くの情報を送れるようになります。

位相変調

正弦波の位相を変更するために、ある瞬間にそれ以前の正弦波の送信を止 め、すぐに同一の周波数と振幅の新しい正弦波を送り出します。古い正弦波の 送信を止めたときと同じ電圧レベル(そして勾配)で新しい正弦波を送り始めた なら、位相に変化はありません(そして変化も検知できません)。しかし、正弦 波形の異なる点から、新しい正弦波を開始すると考えてください。すると、古 い正弦波を止めて新しい正弦波を開始する際、突然電圧が変化するでしょう。 これが位相の変化であり、角度の単位「度」で測ります。0 度(あるいは 360 度)の位相変化は何も変化しないことを意味し、180 度の位相変化は正弦波の 電圧(と勾配)が逆転します。言い換えると、180 度の位相変化は送信の瞬間に 半周期 (180 度)だけとばします。もちろん、90 度や 135 度などの変調もで きます。周波数変調の例では、更に位相の変更も可能であり、1 回の位相変化 でより多くの情報を表現できます。

複合変調

周波数変調、振幅変調、あるいは位相変調からひとつを選択するだけでは なく、複数の変調方法を混用することもできるでしょう。256 の周波数があれ ば、1 回の変調で 1 バイト (8 ビット)を送れます(なぜなら、2 の 8 乗は 256 です)。また、256 の異なる振幅があれば、各々の変調で 1 バイトを表現 できます。更に、256 の位相が使える場合を考えてください。すると、やがて ある人が、周波数、振幅、そして位相の 3 種類の変調ができるかもしれない と、指摘するでしょう。これで一回の送信で 3 バイトを送れます。

現在、実際にこれを行っている変調方式はありません。3 種類の変化をすべて 検出するには比較的長い時間がかかり、現実的ではありません。位相の頻繁な 変化が、実際にはない周波数の変化を引き起こしてしまうのです。

この難点を避けるため、(周波数は変化させず)位相と振幅だけを同時に変化さ せる方法もあるでしょう。これを位相 - 振幅変調と呼びます(ときには Quadrature Amplitude Modulation = QAM と呼びます)。現在、この手法は 14.4k, 28.8k, そして 33.6k のモデムで一般的に使われています。現在、こ の変調手法を使っていない重要な例は 56k モデムです。しかし、56k モデム も PC から電話回線への方向ではもっぱら QAM (位相 - 振幅変調)を使用して います。回線の状態が良くないときは、逆方向も QAM に戻ります。このよう に、今でも QAM (位相 - 振幅変調)は通常の電話回線では最も広く使用され続 けています。

56k モデム (v.90)

上に挙げた 33.6k モデムが使用する「変調」方式は、通常の位相 - 振幅 変調と完全に異なるわけではありません。一般的な通話は電話会社の市内局で デジタル信号に変換されます。従って、通常の電話で送れる最高速度は、電話 会社が使うデジタル伝送部分と同じ速度になります。この速度はどのくらいな のでしょうか? それはほぼ 64kbps です。64k ではあるのですが、同期の目 的のためときどきビットが「抜け落ち」ます。しかし、電話会社が回線はデジ タルだと分かっているなら、情報の損失はないかもしれません。64k の場合を 示し、そしてなぜ本当の速度が低いのか説明します(56k かそれ以下 --たいていかなり少ないです)。

通常の電話はデジタル音声を送るよう設計されたデジタル回線を使用しており、 絶対的な最高速度は 64k です。64k を使うためには、電話会社がアナログ信 号をどのようにデジタル信号へ変換しているかを、モデムが正確に知らなけれ ばなりません。この仕事は両側の端末がアナログインターフェイスだけしか持っ ていないと、非常に複雑になります。しかし、一方にデジタルインターフェイ スがあるなら、(少なくとも一方向に関しては)可能になります。ISP に電話会 社へのデジタルインターフェイスがあるなら、ISP は PC へ向けて電話回線を 通じ一定のデジタルデータを送っても問題ありません。ISP からのデジタル信 号は PC に近い(恐らく自宅にも近い)市内局で、アナログ信号に変換されます。 従って、もとのデジタル信号が何なのかを正確に見つけることが、あなたのモ デムの仕事になります。これができれば、(電話会社のデジタル信号の速度で ある) 64k の送信がこの方向については可能になります。

アナログ信号をデジタルへ符号化するために、電話会社はどんな手法を使うの でしょうか? 電話会社はアナログ信号の振幅を毎秒 8000 回の割合で標本化 します。各々の標本化した振幅は 8 ビットの (ASCII に似た)バイトへ変換し ます(確認 : 8 x 8000 = 64k)。 この操作を「パルス符合変換 (Pulse Code Modulation)」 = PCM と呼びます。そして、このバイト列を電話会社のデジタ ル回路で送ります。この回路は「時分割多重」として知られている仕組みを使っ て、複数の回線が一本の回路を共有しています。最後に自宅に近い電話局でデ ジタル信号を分流し、PCM で作成したもとのデジタル信号と同じものを得ます。 この信号をアナログ信号に変換し、自宅まで送ります。各バイトはアナログ信 号の特定の振幅を生成します。モデムの仕事は検出した振幅に基づいて、 PCM 信号 1 バイトを決定することです。

これは「振幅復調」の類ですが、本来の振幅復調というわけではありません。 キャリアがないので、振幅復調ではありません。正しくは、PCM の逆変換で 「係数変換」と呼びます。電話会社がアナログ信号生成に使ったもとのデジタ ル信号を決定するためには、アナログ信号を生成する際に、モデムは電話会社 と全く同じ瞬間にアナログ信号の振幅を標本化しなければなりません。これを 実現するため、アナログ電話回線を流れる残りの 4 kHz 信号から、同期信号 を生成します。自宅あるいは事務所へ 8k サンプル/秒 で送る信号列は、4kHz の信号を生成します。他のサンプルそれぞれが逆極性だと考えてみてください。 すると、4kHz の正弦波に似た波形ができあがります。ある意味、各々のサン プル点は 8 ビットを表現するシンボルであり、振幅を標本化することは「シ ンボルタイミング」として知られています。

PCM 符号化は線型ではありません。振幅が小さい場合には、信号が大きい場合 と比べると、PCM の値が 1 増えてたとしてもアナログ信号の振幅は非常に小 さくしか増加しません。従って、振幅が小さいと、隣接したサンプル値と識別 することが難しくなります。その識別を容易にするために、非常に小さな振幅 になるような特定の PCM 符号は使用しません。これより、各々の振幅間でよ り大きな差を作ることができ、モデムは正確な振幅を容易に検出できるように なります。v.90 では使用できる振幅のうち半数を使いません。これは(各々の 振幅に割り当てた)それぞれのシンボルが、8 ビットではなく 7 ビットを表現 することと等価です。つまり、7 ビット/シンボル × 8k シンボル/秒 = 56k bps となります。もちろん、実際には各シンボルは 8 ビットで生成します。 しかし、使用可能な 256 バイトのうち 128 バイトのみを使用します。つまり、 8 ビット表現の 128 バイトを 7 ビット表現の 128 バイトへ変換する表があ るのです。

[訳注 : 電話網の PCM 符号化は対数圧縮(μ-law 圧縮)を使用するので、 振幅が小さい場合には量子化の間隔が小さくなります。]

しかし、これは少々複雑です。回線の状態がそれほど良くなかったら、使用で きる振幅レベル数(シンボル数)がより少なくなり、転送速度は 56k を下回り ます。また、アメリカ合衆国政府の規則が電話回線に高出力を流すことを禁じ ているため大きな振幅を使用できず、``56k'' モデムなのに最高でも約 53.3k しか出なくなります。

電話回線網のデジタル回線部分は双方向であることに注意してください。この 2 つの回路は送受信それぞれについて、1 つづつ使用します。家庭や事務所か ら ISP への方向にはひとつのアナログ接続回路しかありません。この方向に は(53.3k ではなく)最大 36.6k の伝統的な位相振幅変調方式を使います。(こ こでは説明しませんが)高度なキャンセレーション手法により、同時に双方向 の通信を実現できます。

[訳注 : 通常、一対しかない電話線でデータの送受信を行います。その まま受信したのでは、受信信号中に送信信号が混入してしまいます。しかし、 端末は自身が送信した信号を知っているので、受信信号から自身が送信した信 号を減算します。すると、受信信号のみを取り出せます。このようにして、一 対の電話線で双方向の通信を行います。]


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